効果的な論文チュータリングのために
本制度を利用するにあたり、一人の留学生が添削支援を受けることができるのは合計で34時間です。限られた時間で最大限の効果を得るためには添削支援の開始前に留学生とチューターで話し合い、お互いの役割と作業方針を確立して達成すべき目標と手段をチューターと留学生の間できちんと共有しておくことが重要です。この認識がずれたまま添削を始めてしまうと作業中の確認事項が増え、時間内に終わることができず、留学生、チューター双方にストレスが増えてしまいます。これらの課題への対応策として、以下の点に留意してチューター作業の効率と効果の向上を図ってください。
①オンデマンド動画の視聴+チューター座談会+参考資料集を有効活用する
②事前に留学生とチューター間の役割分担を決めておく
③事前に添削の作業方針を確立しておく
では早速、①~③について詳しく見てみましょう。
①オンデマンド動画の視聴+チューター座談会+参考資料集の有効活用
日本語添削への心構えと基礎を学び、意見交換を通して添削サポートの向上と添削作業の効率化を図る
チューターが限られた活動時間内で効果的かつ効率的な添削指導をできるよう、一橋大学では、国際教育交流センターの日本語教育部門の教員による添削への心構えや実用的なツールやアドバイスを紹介したオンデマンド動画を提供しており、新たに登録したチューターはその視聴を義務付けられています。
さらに、チューターが日々の添削活動の経験や疑問を他のチューターや日本語教員と話し合う対面のチューター座談会が開催されます(11月下旬開催予定。参加必須)。チューターだからこそ理解しあえる悩みや問題を共有し、解決の糸口を一緒に考えることで問題対応力が養えるほか、日本語教員や他のチューターとのサポートの輪が構築されることが期待されます。それは、チューター個人のスキルアップだけでなく、一橋大学論文チューター制度の向上、そして留学生支援の向上につながります。留学生の日本語自立支援を目指して一丸となって取り組んでいきましょう。
さらに、チューターからしばしば聞かれる悩みや質問をまとめたFAQとチューター活動に役立つ資料をまとめた参考資料集も是非ご活用ください。
②役割分担の原則
そもそも論文チューター制度の理念とは、留学生が自立した日本語論文の書き手になるための添削支援です。論文の著者である留学生は、指導教員のアドバイスの元、論文作成(論旨、論理構成等)を主導する立場となります。この役割分担を双方で認識しないまま論文チューターを開始すると、論文チューターが論文の内容にまで踏み込み、全面書き直しともいえるような「校正」に及ぶケースに発展する恐れがあります。
ではなぜこのような状態に陥ってしまうのでしょうか?
適切な添削を行うためにはチューターが書き手の主張を理解する必要がありますので、そのために論文の内容を確認することは問題ありません。一方で、論文の内容を修正するための内容確認はオーサーシップの侵害であり、チューター業務の領域を超えています。しかし、この二つの領域は切り分けが難しいため、論文チューターを行う中で内容に踏み込むグレーエリアが発生します。役割分担で迷った場合は「チューターはアドバイザー、著者である留学生が最終決定者」であることを双方が念頭に置いて、作業領域を判断していくことをお勧めします。
③作業方針の確立
作業方針を明確に立てるために、添削支援の初回セッションにチューターと留学生が実施すべきこと、2回目以降の通常セッションに行うべきことは以下の通りです。
2-1 添削支援初回セッションにて:
留学生の日本語レベルを把握し、作業方針を策定する
留学生の日本語レベルによりチューターの添削支援内容も変わります。まずはレベルをしっかり把握し、時間配分をイメージし作業方針を固めてください。
具体的には:
- チューター = 留学生の対面(またはリアルタイムオンライン)セッション
- 留学生の準備したA4用紙一枚程度のドラフトをチューターが添削してみて実際の作業時間を把握する
- 所要時間や内容をベースに支援計画を作成する
- ▹ご活用ください。チューター手順(マッチング前後)(242KB)
2-2 添削支援通常セッションにて:
添削作業効率の最適化を図る
ここでも添削前に事前確認を行うことで添削作業の効率化を図ることが可能です。留学生が準備した依頼シートをもとに見積もりを行い対応内容を事前に明示しておくことで誤解や過度な期待を避けることができます。
具体的には:
- チューター = 留学生の対面(またはリアルタイムオンライン)セッション。メールなどの非同期ツールは避ける。
- 留学生からチューターへ事前に依頼書(22KB)を提出する
- 1セッション90分内での添削を徹底する
- 依頼書を確認し、本セッションで行う作業内容と達成内容を留学生に伝える
- 依頼書を使わない場合、最初のあいさつと同時にコミュニケーションをとり、「どこまでの範囲を、どれくらいの密度ですすめたいのか」をたずね、開始五分後くらいに「このペースでよいか」確認する。
- 2,000字あたりの助言時間を計測し、添削や助言にかかる目安を立てる
- メリハリをつけた助言を心がける。不明な表現等は対面にいる留学生本人に確認する。
- ご活用ください。チューター実践案(543KB)